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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)1925号 判決

原告 株式会社戸山製作所

右代表者 広瀬一人

右代理人弁護士 堀内正巳

〈外二名〉

被告 上野屋食品株式会社

右代表者 上野一太郎

右代理人弁護士 坂本三次郎

主文

被告は原告に対し、金一〇万円及びこれに対する昭和三一年一月一九日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告において金三万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

原告の請求原因事実中、被告会社が、昭和三〇年一一月二一日頃、本件手形に金額一〇万円、満期昭和三一年一月一九日、振出地及び支払地東京都新宿区、支払場所株式会社大和銀行新宿支店、振出日昭和三〇年一一月二一日と記載し、振出人として署名捺印したこと、原告が本件手形を訴外株式会社三井銀行に裏書譲渡し、右銀行は本件手形の満期日である昭和三一年一月一九日に右手形をその支払場所に呈示して支払を求めたところ、支払を拒絶されたこと、そこで原告が更に右銀行から本件手形の裏書譲渡を受けて現在その所持人であることは、当事者間に争いがない。しかし、「被告会社が本件手形を原告会社あてに振り出した」旨の原告の主張について考えてみるに、被告会社代表者本人の供述によれば、本件手形は前記日時に、被告会社代表者たる上野から訴外和田安蔵に対して受取人欄空白のまま交付されたことが認められ、原告会社代表者本人の供述中この認定に反する部分は右証拠に照してこれを信用しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はないから、原告会社が被告会社から直接本件手形の振出を受けた旨の原告の主張はこれを採用しない。

次に被告の抗弁につき考えてみるに、表面の受取人欄及び裏面の部分を除き成立に争いのない甲第二号証の記載及び被告代表者本人の供述(但し、後記措信しない部分を除く。)に前記争いのない事実を併せ考えれば、昭和三〇年一一月二一日、被告代表者は前記和田をして本件手形をもつて被告会社のため金融に奔走させるため、本件手形の受取人欄のみを白地としその他の凡ての手形要件を記入しかつ振出人としての署名、捺印をした上これを同訴外人に交付したこと、その際本件手形の割引をしてくれる者があればそのときに、改めて被告代表者みずから右手形の受取人欄の補充をするという合意が被告代表者と右和田との間になされていたことが認められる。これによつてみれば、被告は、後日割引が可能となつたばあいには、本件手形の文言にしたがい、振山人としての手形上の責任を負担する意思を以て本件手形に前記の記入並びに署名捺印をなし、これを右訴外人に交付したものであるからそこに振出行為はあつたものであり、本件手形は振出人の意思に基いて流通におかれたものと認めるのが相当である。被告代表者本人の供述中、この認定に反する部分は前示各証拠に照してこれを信用することができず、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。ただ、一般に、白地手形とは、要件の欠缺補充を他人に委託して振り出された手形と解すべきところ、本件手形の振出は、右の如くその補充権を振出人たる被告みずからに留保する合意の下になされた点において、本件手形はいわゆる白地手形とは言いえないにしても、右認定のような事情の下においては、そのような趣旨の下に振出を受けた右和田が、被告との間の右合意に反してみずから受取人名を記入しこれを流通におくかもしれないという危険は被告において当然予想しえたものと認めるのが相当であり、したがつて、白地手形の流通を図ると同時にその善意の取得者を保護せんとした手形法第七七条第五項において準用される同法第一〇条の趣旨は、本件のようなばあいにおいても類推適用されるものと言わなければならない。しかるに、前記甲第二号証の記載(但し、表面の受取人欄及び裏面の部分を除く。)に原被告各代表者本人の供述を併せ考えれば、本件手形の振出に先立ち、昭和三〇年九月一九日頃、原告会社は訴外某に売り渡したテレビ受像機の代金として被告会社振出、額面金二五万一千円、満期同年一一月二一日の約束手形一通を同訴外人から裏書譲渡を受けていたこと、その手形は被告会社代表者が前記和田に交付した手形で、同月二一日頃、原告代表者は右手形の書換手形として本件手形を含む計二通の約束手形(額面金額合計二五万六千円)を右和田から交付されたこと、その交付に先立ち、右和田は被告との前記合意に反して、本件手形の受取人欄に原告会社名を記入したことが認められ、被告代表者本人の供述中、右認定に反する部分は前示各証拠に照してこれを信用せず、その他右認定を左右するに足る証拠はなく、又原告代表者が右和田から本件手形の交付を受けるに際し、和田が右の如く擅に本件手形を補充したことについて悪意であつたことはこれを認めるに足る証拠がない。したがつて、本件手形が不完全手形として無効であり、かつ原告が悪意の取得者であることを前提とする被告の抗弁は、失当であつて、本件手形の振出人たる被告は、その所持人たる原告に対し、振出人としての責任を免れえないものと言わなければならない。

以上の理由により、被告に対し、本件約束手形金一〇万円とこれに対する本件手形の満期日である昭和三一年一月一九日から支払ずみに至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める原告の本訴請求は正当である。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一八六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 福島逸雄)

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